現場の知恵と「3.11」の教訓を形に。隼電気株式会社、冬の小学校を舞台にしたBCP実地演習レポート

2026.03.06

レポート

仙台市では2024年6月から参画している国連防災機関(UNDRR)主導の「中小企業レジリエンス・サポート・プロジェクト」の一環として、地域企業が策定した既存のBCPをより実効性の高いものへブラッシュアップするための支援を行っています。今回は若林区で電気設備工事業を営む隼電気株式会社への支援の取り組みをレポートします。

実効性を問う「動くBCP」への挑戦

2026年1月26日、仙台市立七郷小学校の工事現場事務所において、隼電気株式会社の大規模地震を想定した事業継続計画(BCP)演習が実施されました。

演習の舞台としたのは、同社が実際に設備工事を手掛けている七郷小学校です。学校は地域住民の「指定避難所」でありながら、平時は児童が学び、同社の社員が作業を行う「稼働中の現場」でもあります。こうした「学校・避難所・工事現場」という三つの側面を併せ持つ特異な環境において、発災時にいかに人命を守り、地域と連携しながら事業を継続するかを検証することが、今回の大きな狙いです 。地域社会全体で災害対応の真価が問われる中、同社は「計画書を単なる書類で終わらせない」という強い意志のもと、今回の実践的な訓練に臨みました 。

演習は、防災の専門家である株式会社ウィズグロースの協力のもと、参加者が特定のシナリオ(状況設定)に対して議論を行う「シナリオ型ディスカッション(机上訓練)」形式で行われました。正解のない問いに対し、現場担当者、本部社員、そして経営層がそれぞれの視点で意見を出し合う、極めて実践的な内容となりました 。

演習の舞台:厳冬の仙台、震度6強の衝撃

演習のシナリオは、1月26日14時、宮城県沖を震源とするマグニチュード7.3の地震が発生したという設定です。仙台市では震度6強を観測。電気・ガス・水道のライフラインは即座に停止し、JR各線も運転を見合わせます。折しも季節は厳冬期。暖房も照明も奪われた過酷な環境を、参加者はリアリティを持ってイメージしながらシミュレーションを進めました 。

【フェーズ1:発災直後の初動】現場における安否確認の判断基準

「警報級の揺れなら、朝礼広場に全員集合と決めている」という現場担当者の言葉は、日頃の徹底した周知を物語っています。
しかし演習では、「作業員が一人足りない」という事態が提示されました 。全員揃っていない場合、何分経過したら捜索に行くのか。この問いを受け、具体的な時間をディスカッションしました。
地震発生から5分。これが、今回隼電気が安否確認の基準として設けた時間です 。

捜索にあたっては、現場に残る者と探しに行く者を分け、作業場所をピンポイントで捜索する具体的な手順が確認されました。発見された負傷者に対し、学校という環境をどう活かすかという点では、「保健室にある担架を借りる」「担架がなければ、学校にある椅子に座らせ、両側から支えて運ぶ」といった、具体的な搬送案が飛び出しました。図面上の知識ではなく、実際にその場にいるかのような解像度で議論が進みました。

【フェーズ2:避難所運営との調整】リソースの競合と優先順位

今回の演習の特筆すべき点は、工事現場がそのまま「指定避難所」となる小学校であったことです。避難所が開設されると、工事関係者と避難者の間で「リソースの奪い合い」という現実的な問題が浮上します。校舎内の電源、水道、トイレ、通路などの使用を巡る摩擦がシミュレートされました 。

避難所が開設される際、建設業者は何をすべきか。ここで出された意見は、プロフェッショナルとしての誇りに満ちたものでした。
同社が持つポータブル電源を避難者の充電スポットとして開放する案や、受水槽から直接水を取り出す技術的な検討が行われました。一方で、緊急用電源の確保やライフラインの復旧を最優先するため、本来の工事計画を後ろ倒しにするといった、柔軟なスケジュール調整の必要性も浮き彫りになりました 。

【フェーズ3:工事再開のハードル】安全確認と再設計

避難所としての役割を終えた後も、即座に工事が再開できるわけではありません。演習では、建物の構造安全性確認や設備検査による遅延が想定されました 。

「避難者がいる横で工事の音や振動を立てるわけにはいかない」という心理的安全への配慮に加え、地震の影響による「耐震補強の追加」や「設計内容の再検討」が必要になる可能性も指摘されました。工事人員の再確保や、避難所運営中に移動・撤去された資材の再配置など、平時とは異なる膨大な調整作業の重要性が共有されました。

参加者の振り返り:3.11の記憶を「魂」として宿す

演習の最後には、参加者の皆様から非常に重みのある振り返りの声が寄せられました。

過去の震災経験からの学び

ある社員の方は、東日本大震災の際に本社が崩落した凄惨な体験を語ってくださいました。 「バキバキと柱が割れる音がし、2階が潰れ、窓の外に砂煙が見えた。あの極限状態で、自分たちが何をやっていたのか、今振り返ると冷静ではなかった」という回想は、安否確認の仕組みをシンプルに保つことの大切さを再認識させました。

「インフラを担う」という使命感と現実

現場の方からは、「家族の安否が確認できたら、次は自分たちの技術でインフラの復旧に貢献したい」という力強い言葉がありました。「絶対にインフラを復旧しないといけないという使命感があります。自分たちだけでは完結しないからこそ、行政や他業者との事前の足並み揃えが不可欠だ」という現実的な課題も挙げられました。

社員一人ひとりの事情に寄り添う

また、マネジメント層からは、より具体的な改善策が提案されました。家族の連絡先情報を、会社で預かる許可を事前に取ることや、帰宅のルールをより明確にすることなど、次々と「明日からできる改善」が挙がりました 。

オンライン参加者の視点

オンラインで参加していた本社の社員からは、「BCPは基本を守りつつも、臨機応変さが重要だと改めて思いました。場所や状況によって動き方は変わる。だからこそ、いろいろな対応の『引き出し』を多めに持っておくことが大切だと感じました。今回の演習でその引き出しを増やすことが出来たのではないかと思います。」との意見が寄せられました。

むすびに:明日からできる「5分間のBCP演習」

講師は、BCPを継続させるコツとして「細かくしすぎないこと」と「日々の5分・10分の対話」を挙げました。
「細かく策定してしまうと、臨機応変に動きにくくなってしまう。BCPをベースにしながら、社員一人ひとりが臨機応変に考え、対応できるようにすることが大切です。また、毎月の会議の合間に一枚の写真を見せ、「この時どうする?」と問いかけるだけで十分な訓練になります 。」

隼電気のBCPは、今回の演習を経て、より現場のリアリティに即した計画へと進化しました。避難所運営との調整や工事再開時の安全点検など、具体的なリスクを一つずつ議論したことは、日頃から一事業者によるBCPという枠組みを越え、地域社会全体の回復力を高めることにつながる有意義な取り組みとなりました。災害という「いつか」のために、今できる対話を積み重ねる。同社の挑戦はこれからも続きます。